Masuk彼は精神支配の魔法の基本を説明し始めたが、その説明の中に微細な魔力を送り込み、レイニーの意識を揺さぶろうと試みた。
しかし、レイニーは全く気づかない様子で、ただ嬉しそうに頷いていた。
「うん。うん。それで、それで~?」
レイニーは興味津々に聞き返した。
ディアブロの心中には焦りと恐怖が募るばかりだった。こんな状況では自分の力が通じないことを理解し始めていたが、それでも何とかしてこの子供を制御しなければならないと思っていた。
「次に、より高度な精神支配の術を教えよう。これを使えば、対象の意識を完全に支配することができる」
ディアブロは続けた。彼の声には微かな震えが混じっていたが、必死に冷静を装っていた。
「へぇ〜、面白そうだね! もっと教えて!」
レイニーは目を輝かせて言った。その無邪気な笑顔に、ディアブロの心は一層冷たくなっていった。彼の内心では、この子供が一体何者なのかという疑問が渦巻いていたが、それを解明する手がかりはまだ見つかっていなかった。
ディアブロは、内心の焦りと恐怖を押し隠しながら、さらに高度な精神支配の術を説明し続けた。彼の手は微かに震えていたが、何とかしてこの状況を打開しようと必死だった。
♢絶望的な敗北レイニーが油断したのか、あるいはディアブロを信用したのか、精神支配を教える流れで、レイニーの体に自然な流れで触れられるチャンスが訪れた。ディアブロは当然、間接的に目を見つめ魔力を使うことで相手を支配できるが、より確実により強力に支配するには、相手に直接触れ、直接オーラを流し込めれば支配できたも同然だ。
ディアブロは、レイニーの体に直接触れ、悪魔のオーラを流し込もうとした。しかし、魔力が全く入っていかない。通常、体に触れ直接的に魔力を流し込み侵食し精神支配をすれば、多少力の差があっても可能で失敗することはなかったはずなのに。
レイニーの魔力の性質や魔力量を覗こうとすると、その溢れ出す闇属性特有の負のオーラにレイニーは覆われており、ディアブロは負のオーラをまともに食らってしまった。ディアブロは、魔力の強大さや魔力量を調べるどころではなくなり、吐き気を感じるほど気分が悪くなった。
「なんだ!? この負のオーラの密度、オーラの量……。こんな存在はありえん!? この密度と量の負のオーラを纏う者の存在は……古代の最強の魔王と恐れられていた者だが、それを遥かに越えているぞ……いや、それ以上の者の存在を超えているかもしれん」
ディアブロは驚愕し、絶望感が押し寄せてきた。侵食や支配など到底無理だと悟った。……次元が違いすぎる。まるで赤子が格闘家に戦いを挑むようなものだ。
「最上位の悪魔に、これほどの絶望を与えるやつが存在するとはな……完敗だ……」
ディアブロの心中には、これまで感じたことのない恐怖と無力感が広がっていた。彼は自分の力が全く通じないことを理解し、レイニーという存在の異常さに圧倒されていた。
♢屈辱の契約「ね、ねぇ〜。他には?」
レイニーの無邪気な問いかけに、ディアブロは焦りを感じながら答えた。
「すまない。我には……」
ディアブロは視線をそらし、苦渋の表情を浮かべた。
「え? そうなの?」
レイニーの返答に、ディアブロは心の中で策を練り始めた。何とかしてこの状況を打開しなければ。
「ちょ、ちょっと待て、我と契約をしないか?」
ディアブロは、焦りを隠しながら言葉を続けた。契約さえしてしまえば、異次元空間に閉じ込められはしないだろうと考えた。もしかしたら対等な関係になれるかもしれん。我も、これでも悪魔の最上位だからなと、僅かな望みにすがりついた。
「えぇ? 契約って何の契約なの? 変なことを企んでるんでしょ?」
レイニーは疑わしげに問いかけた。
「同盟のような契約だ。裏切れないといったところだ」
ディアブロは冷静を装いながら答えたが、内心では焦りが募っていた。
「え? なんで? 必要ないでしょ。俺に何の得もないしさぁ〜。それに、それじゃ実験できなくなっちゃうじゃん!?」
レイニーの言葉に、ディアブロは絶望感を覚えた。
「契約をしてもらえれば、役に立つぞ」
ディアブロは、必死に説得しようと試みた。レイニーは嫌そうな顔をしてきた。
「えぇ〜役に立つって、具体的に何をしてくれるの? 悪魔との契約は、好きじゃないんだけど……」
レイニーの問いかけに、ディアブロは一瞬言葉に詰まった。
「いろいろとだな……役に立つぞ。契約と言ってもだな……対価は必要ないぞ! 対価なしで、最上位の悪魔を仲間にできるのだぞ!?」
ディアブロは、自信なさげに必死に答えた。
「……それ、役に立つって言ってるけどさ、ただ言ってるだけで……実は、何も考えてないよね? その程度の強さの悪魔を仲間にしてもなぁ……」
レイニーの指摘に、ディアブロはさらに焦りを感じた。
「側で守ってやるぞ。それに、話し相手にもなるぞ」
ディアブロは、最後の手段として思いつく物を全て提案した。
「……そんな怖そうなヤツが側にいたら大騒ぎだし、必要ありませんっ」
レイニーの断固とした態度に、ディアブロは完全に追い詰められた。
「大人しく殺されなさい……」 ダイモンが冷たく囁くように言うと、エリゼが抵抗し動いたからか頬から血がにじみ出てきた。その赤い雫は、レイニーの視界を真っ赤に染めた。 エリゼを傷つけられたという、怒りの感情が溢れ出し、レイニーはエリゼに改めて完全遮断の結界を張った。この結界はこの世界と切り離されているので周りで何が起きようが影響を受けない。だが、何が起きているのか見えず、聞こえず、閉じ込められた感じになってしまう。空間の中に外の風景を投影してストレス軽減をしておいた。レイニーの心には、エリゼへの深い愛情と、ダイモンへの激しい怒りが渦巻いていた。 エリゼの傷は回復魔法が効かないと言っていたので、レイニーのスキルのイメージで治療した。回復ではなく、イメージで元の状態を復元した感じで、治すのとは違う。エリゼの頬の傷は、みるみるうちに消えていった。 さて、コイツをどうしよう……? 大切な仲間のエリゼを傷付けた大罪人を。背負われていたあーちゃんが、いつの間にか擬態を解き、ディアブロの姿で現れていた。その漆黒の翼は、闇の中で静かに広がる。「主よ……どうか怒りをお沈め下さい」 現れたディアブロが怯えた様子で跪いてきた。その声は、震え、レイニーの放つ怒りのオーラに怯えているようだ。「なんでさ? 仲間を傷付けられて許せるわけ無いでしょ。なに? 同族が殺されるのが嫌なわけ?」 レイニーは、ムスッとした表情をしてディアブロに言った。俺の仲間が傷つけられて許せっていうの? それで、自分の同族はゆるせって? あり得ないしっ。レイニーの言葉には、ディアブロへの不満と、エリゼへの強い庇護欲が込められている。「あんなヤツは、どうでもいいですが……。その力で攻撃は……マズイです。辺りが滅びます」 ん!? あ、同族をかばう気はないらしい。『あんなヤツ』とか言ってるし。ディアブロの言葉に、レイニーは少し驚いた。「ん? ディアブロには関係ないことじゃないの? 不死なんだろ?」「
『気配を消すってことはさぁ、知能が高くて力もあるってことだよね? 普通の魔物じゃないってことかな……』『一応、気をつけてくださいね……でも、レイニー様なら大丈夫だと思いますけど!』 随分と、過剰評価をしてくれてるけど、俺はこの世界に来たばかりで……不安なんですけど。レイニーは、あーちゃんの言葉に内心でツッコミを入れた。♢悪魔子爵ダイモン 近辺の探索をすると、遺跡のような場所を発見した。そこには小さな祭壇があり、その祭壇には祀られているのか封印されているのかは不明な場所があったが、それが開けられていた。その光景は、レイニーの好奇心を刺激し、同時に不穏な予感ももたらした。 あぁ……ここで何かをしていたのか〜? うぅーん……気配の性質が魔物ではなく、遥かに知能が高い……。それに悪意を感じるという事はぁ〜……悪巧みをしてるってことかぁ〜。レイニーは、その場の状況を推測した。 気配を消してもバレバレなんだけどね、悪意に害意と殺意を感じるし。レイニーは、相手の意図を完全に読み取っていた。「あのさぁ〜ここで、なにをしてたのかな〜?」 レイニーは、殺意のある方へ声を掛けた。その声は、どこか挑発的だ。 祭壇の陰からディアブロとは違い、人型で角が生えていかにも悪魔という者が現れた。雰囲気とオーラの感じからしてディアブロの放つ悪魔のオーラをまとっていた。その姿は銀色の長髪が光を受けてキラキラと輝き、深紅の瞳が鋭い光を放つ。高級感あふれる黒と金の貴族衣装は、歩くたびに優雅に揺れ、豪華な装飾が一層彼の威厳を際立たせている。浅黒い肌には冷たい光が反射し、頭に生えた曲がった角が漆黒に光る。まさに高貴な悪魔の子爵といった風貌だ。その存在感は、見る者を圧倒する。 その悪魔が一瞬の沈黙を破り、低く冷ややかな声で話し始めた。「……全く、見て見ぬふりをしてその場を離れてくれればよかったのに&he
気を良くして洞窟の奥に足を進めていくと、数匹のゴブリンに遭遇した。前方に現れると横穴からも現れて完全に囲まれた。まあ、知ってたけど……。レイニーは、ゴブリンの存在を事前に察知していた。 ゴブリンもこん棒を手に持ち、襲い掛かってくる。まるで軍に入りたての少年兵の様な大振りで、隙だらけで簡単に避けられるし、倒せる。レイニーは、初めての剣術を使いゴブリンの首を斬り落とした。その剣は、正確にゴブリンの急所を捉えた。 エリゼが実戦を見て、血や首を切り落としたところを見て引いてると思いきや……「うん。今度は、キレイな剣術だったよ♪ さすが、お父さんが認めるだけあるねっ」 エリゼは、ニコニコの笑顔で誉められた。人型の魔物でも抵抗がなさそうだね? 俺は少し抵抗があるんだけどなぁ……。レイニーは、エリゼの順応性に驚きつつ、自身の内心の葛藤を感じていた。♢地下湖と古びた扉 さらに洞窟の奥に進むと、小さな地下湖が現れた。その水面は薄い霧がかかっており、松明の光が反射して幻想的な光景を作り出している。幻想的で不気味にも感じる光景で、息を呑む雰囲気だった。その美しさと不穏さが混在する空気は、レイニーの心を掴んだ。「わぁ……キレイだけど……不気味だね」 エリゼも同じ事を感じていたみたい。その声には、驚きと、わずかな恐れが混じっている。「うん。幻想的でキレイだけど、魔物が現れそうな感じがするね〜」 レイニーは、警戒しながら呟いた。 湖のほとりを見渡すと、冒険者たちが置き去りにした古びた装備や道具が見え、ここが多くの者にとっての休息の場でもあったことがうかがえるし、ここで襲われたとも考えられる。休憩をしているところを襲われ、荷物や装備品をそのままに逃げたのかもね……。その光景は、過去の出来事をレイニーに想像させた。「冒険者の装備品が、不気味に見えるね〜。周りに魔物の気配は無いけど、気を付けないとね」 レイニー
その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。レイニーは、その圧倒的な力に想像を巡らせた。「ここから入れそうだよ?」 エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪ レイニーは、エリゼの行動に、面白さと、わずかな呆れを感じた。 まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。「一緒に行く?」 レイニーは、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」 エリゼがレイニーの服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。その瞳には、心細さが滲んでいる。「エリゼなら大丈夫じゃない?」 レイニーは、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」 可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。「だよねぇ〜」「うん♪」 二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。レイニーは、今後のエリゼとの冒険に、若干の不安と、それでも期待を抱いた。♢洞窟の探索 洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴の音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。その光景は、
軽食を摂り、少し元気が出たのでアイテムボックスから剣を取り出しエリゼにも渡した。実力は少年兵よりは高いから、少しは頼りになると思う。……お遊び程度の魔物しかでてこないと思うけど。この辺りの魔物の反応が、低級の魔物の反応しか無いし。これなら二人で楽しみながら山頂に向かえるかなっ。レイニーは、山の気配を探索し、状況を判断した。「さー、出発しよー♪」「はぁいっ!」 エリゼは、元気いっぱいに返事をした。 小さい魔物が現れると、二人で顔を見合わせてニヤッと笑った。「どうする? エリゼも戦いたいんじゃない?」「わたしに倒せるかなぁ〜?」 エリゼはそう言うけど、顔が笑ってるじゃん。しかも剣を構えてるし……。レイニーは、エリゼの興奮を感じ取った。「どーぞー♪」「……う、うん。えいっ!」 エリゼは、シュパッ!と剣を振り下ろし、一撃で魔物を討伐できた。その剣筋は、見事なほどに鋭い。「わぁーい! 倒せた! ねえ、見た?見た?」 エリゼは嬉しそうに振り返り、満面の笑顔で聞いてきた。昨日の森とは雰囲気が違い、不気味な雰囲気もないし。その瞳は、達成感に輝いている。「うん。余裕そうだね〜!」 というか、さすがセリオスの娘で剣の扱いが慣れていて剣がぶれていないし、剣のスピードが早い。レイニーは、エリゼの才能に舌を巻いた。「まぐれだよー」 エリゼは謙遜してるけど、日々の訓練の成果だと思う。これだと、俺の出番が無くても良いのかもなぁ〜接待の魔物の討伐だなぁ。日頃の感謝の気持を込めて、エリゼに付き合おう♪ レイニーは、エリゼの成長を喜び、温かい気持ちになった。「次は、お兄ちゃんね!」「俺は、帰りで良いよ〜。二人で疲れちゃったら、強敵が出た時に困るでしょ〜」 エリゼが楽しそうだったので、今は遠慮しておこうかな。レイニーは、エリゼに花を持たせることにした。「あぁ〜そっかぁ。わかった! 行きは、わたしが頑
「はいっ! もちろんですっ♪ おとーさまっ」 レイニーは、そう言いながら国王に駆け寄り、抱きついた。それで、甘えておこうっと♪ 国王の服の感触が、幼い体に心地よい。「うむ。だが、キケンなことはするでないぞ!」 抱きつかれて、苦しそうな声を上げる国王の声が鳴り響いた。その声には、レイニーへの愛情と、それでも厳しさを教えようとする親心が感じられる。「はぁーい!」 レイニーは元気に返事をして、しばらく甘え続けて部屋に戻った。♢山への道のり ……翌日。 早朝から用意をしておいた馬車に乗り込み、エリゼと馬車で山へ向かった。 ちゃんとした送迎用の馬車で、王国の紋入りではなく普通の一般的な送迎用の馬車だ。一般人は……馬車には乗らないけどね。「わぁ! ちゃんとした馬車なんて初めて!」 エリゼが窓の外を眺めて、嬉しそうに声を上げた。前回乗ったのは兵士を護送するタイプの馬車だったしね。その瞳は、新しい体験に輝いている。「あはは……たぶん……10分もすれば具合が悪くなると思うよ……。この直に来る振動に揺れがキツイんだよね」 レイニーは、経験からくる予感を語った。「えぇ〜楽しいじゃん♪」 エリゼが、左右の窓に行ったり来たりして楽しそうに過ごしていた。その無邪気な姿に、レイニーは頬を緩めた。 …………。 ………………「あ、あぅ……」とエリゼが声を上げた。馬車が道に転がっている石に乗り上げ、たまに大きな振動が直におしりと腰にくる。その衝撃は、馬車全体を揺らし、乗員の体を突き上げた。 ………………。







